寄り道ブログ
寄り道な人生をしています。読んだ小説や、見た映画・アニメの感想などを投稿していきます。
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ハヤカワ文庫 虐殺器官 感想
虐殺器官

 伊藤計劃さんのデビュー作で、「ベストSF2007」の第一位に輝いたということで、興味本位で読んでみましたが、正直なところ、あまり面白いとは思えませんでした。

 ※自分で内容整理するためにも感想を書いてみましたが、じゃっかん(かなり?)批判的な感想のため、ファンのかたは注意してください。


【概要】
あらすじは、ハイテク化の進んだ戦場で明らかになる戦争の発端・原因の人物、そして彼の語る虐殺器官や虐殺言語に、傭兵の主人公が触れていく・・・という話でした。

戦争の発端というのが、作品のタイトルにもなっている「虐殺器官」と綿密につながってきます。なんでも、人間にはそういう器官があって、メディアなどに仕込んだ虐殺言語を無意識に視界に入れることで、凶暴性などが知らず知らずのうちに増していき、戦争が起こる・・・という感じだったと思います。

曖昧なのは、作中でも虐殺器官や、それを刺激する虐殺言語というものが、あまり登場しないことにありました。そして、そこが不満点の大きなポイントでもあったと思います。

虐殺器官ってのがあるらしい、虐殺言語ってのがあるらしい、でストーリーは進みますが、けっきょく主人公はいち傭兵に過ぎませんし、ハイテク化の進んだ戦場はなかなか見ごたえがあったかもしれませんが(それも必要性があったとは思えませんし、時代背景から考えて現実味も整合性もなかった気がします)、けっきょくのところ、この作品は何がいいたかったのか? という疑問が最後に残りました。

巻末の解説には、一度、この作品は2006年の小松左京賞に落選しているとあり、その落選理由も書いてありましたが、わたしとしては「まさにそのとおり」という感じで、日本どころか世界にまで評価されているSF作品とは、とても思えませんでした。

【中身について】
好みの問題もありますが、まず、その文体がわたしは好きじゃありませんでした。「~だ、と」みたいな表現が頻繁に見られ、これも読んでいてリズムを狂わされる感覚がします。この作品自体が虐殺言語になっていたらすごいですが、それならそれで、読者の虐殺器官に働きかけてどうするつもりだ、って感じになりますし・・・。

この表現に限らず、文章が詩的かつ日本的表現すぎて、わたしとしてはそれが苦しかった。登場人物はほとんど外人でしたが、そのウェットに富んだ表現(っぽい何か)は、洋画を見て真似ているように見えて恥ずかしささえ覚えました。翻訳家の人の方が、もっとそれらしい表現をしてくれるんじゃないでしょうか。ハイテク化が進んでいる近未来にも関わらず、アマゾンやドミノピザといった会社名が登場するのにも違和感がありましたね。ガンダムUCでローマの休日が出てくるくらいの違和感です。近未来というなら、登場してもいいでしょうけど、だとすると、ハイテク化させた意図がわかりません。

それに、やたらと、実在する映画や絵画、小説の一節などを引用するシーンがあるのですが、それも、わからない人からすれば「博識ぶっている」としか思えない要素でした。「博識ぶる」演出として、またはキャラクターを際立たせるためにつかうこともあると思いますが、さすがに多すぎて、その引用が出るたびに、これまた読んでいる手が止まります。作者さんが「好きだから」かもしれませんが、読んでいる方としては非常に鬱陶しい表現のひとつでした。

作者さんにそのつもりがなかったとしても、読者に「博識ぶっていると思われても仕方ない」要素だったと思います。もちろん、SF小説はSFファンしか読まない。そういう前提で、なおかつ、SFファンならこれくらい知っている、という、ある種の乱暴な線引きをした上でその引用を使ったとしたら、そこに文句はありませんが、それじゃあ、少なくともわたしは、その「読む資格」のようなものがなかったんだなぁと思いますね。

【この作品について】
ここからは邪推なのですが、伊藤計劃さんはすでに亡くなっていて、奇妙なことに、わたしはコミック「あきそら」の最終巻のあとがきで、伊藤さんのことを知りました。「あきそら」の作者さんと伊藤さんは知り合いだったようですね。もちろん、「虐殺器官」や「ハーモニー」といった作品は知っていましたが、その人がらまでは知りませんでしたし、それが普通だと思います。

虐殺器官の解説でもことこまかに伊藤さんのことが書かれていました。なんでも癌で、虐殺器官はベッドで書いたとありました。筆がとても早く、すぐに作品を作ってしまうとも。そして、「メタルギアソリッド」のノベライズ後に「ハーモニー」を書かれてこの世を去ったと(蛇足ですが、この作品のハイテク化された戦場のメタルギアソリッド感はとてつもないです。攻殻機動隊っぽさもかなりありました。伊藤さんはかなり影響されたんじゃないかと疑うほどです。もちろんそれだけじゃないでしょうが・・・)。

とても悲しいことではありますが、作者さんの境遇というものは、本を読んでいる上ではまったく関係ありません。虐殺器官の帯には、伊坂幸太郎さん、宮部みゆきさん、メタルギアシリーズ監督の小島秀夫さんの大絶賛の文章が書いてありましたが、わたしとしては「それほどか?」という感じでしたし、なんだか、伊藤さんのその辛い境遇を付加価値として、この作品を奉りあげている気がしてなりませんでした。それこそ邪推で、まったく証拠はないのですが、昨今の大言壮語で宣伝過多な作品の売り出し方などを見ていると、どうしても・・・。

絵画の世界でも、作者の境遇や功績というのは考慮されるものですし、この作品にも、それが作用したと考えれば納得できます。伊藤さんだけにしか書けない特有の死生観だって、含まれていたのかもしれません。でも、残念ながら、それはわたしには伝わらなかったという他ありません。

【最後に】
わたしの読みこみが足りないというならそれまでですし、各所から好評を得ている以上、この作品はきっと素晴らしいものなんでしょう。しかしわたしは面白く感じられず、仮に、作者の境遇が考慮されたうえでの高評価だとしたら、それはわたしが面白くないと感じた根拠になることでしょう。

SF小説は、アイデアを披露する場だと思っています。この作品の場合、それは虐殺器官だったり虐殺の言語だったりするはずですが、それを巡るアレコレがなく、世界観設定も厳密かつ精緻ではない以上、SF小説というよりはミリタリー小説、ミステリー小説、思想小説(なんだそれ?)に近い作品だったと思います。そう考えると、まぁ面白かったかな? いや、どう考えたところで、あんまり・・・という感じですね。

ハーモニーものちのち読もうとは思っていますが、他にも読みたい本がありますから、優先順位はかなり下がった感じです。読むのが遅いタチなので、面白くないとかなり批判してしまうのはわたしの悪いクセですね。

でも、この作品の解説や感想、書評なども調べてみて、もうちょっと理解を深めると、また違う感想を抱くかもしれません。でも、そんなことするヒマがあったら、別の本を読むでしょうね・・・。ハーモニーを読む前くらいなら、調べるかもしれません。
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