寄り道ブログ
寄り道な人生をしています。読んだ小説や、見た映画・アニメの感想などを投稿していきます。
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閉鎖された白い部屋
四月の四週、pixivに投稿した短編です。
 目覚めると、そこは真っ白な部屋だった。
 真っ白と言っても、白い壁紙で覆われているわけではなく、液晶ディスプレイが白色を表示しているかのようにほの白く光っていて、彼の目は少しまぶしさを覚えた。
 彼は周囲を見渡し、そこが五メートル四方の光った部屋であること、出入り口などは皆無であること、そして、見知らぬ女が、人形のように脱力した姿勢で座っていたことなどがわかった。
「誰だ? というか、俺は……誰だ?」
 相手への質問は自問自答へと変わっていた。彼は、自分が誰なのか、まったくわからなかったのだ。
「おーい、お前、ちょっと話があるんだけど」
「……………」
「ん?」
 女は、虚ろな表情と死んだまなざしで、天井とも床とも言えない虚空を熱心に眺めていた。けれどそれは、眺めているわけではなく、ただ、そこに顔を向けているに過ぎなかった。
 男は近づき、眼前で手を振ってみたり、手を触ってみたりした。その確認作業は、髪や頬を触るまでエスカレートしたが、そこまでやって、やっと、それが人形であることに気づくことができた。
「な、なんだ、人形かよ……気色悪いな」
 自分がなぜそこにいて、女もなぜそこにいるのか、その理由がわかればと彼は思ったけれど、その手がかりのようなものは一切なく、記憶を失っていることからも、それが誰かの思惑だったのなら、とても用意周到な奴なんだろう、と男は思った。
 手がかりという手がかりなら、いくつかあった。
 衣食住はちゃんと提供され、それは、人並みの生活を送らせる意図があるのか、と男は勘繰ったが、生きる執着にはかなわず、それは甘んじて享受することになった。
 食事は、どこからともなく壁や床や天井が開き、そこから丁寧に出されることもあれば、乱暴に出されることもあった。パンが降ってきたり、トレイに定食が乗っていたり、フランス料理のフルコースが出てくることもあった。
「俺を太らせて、とって食うつもりか?」
 それにしてはコストがかかりすぎている気がした。食事が出てくる小窓から向こうを覗こうとしても、料理を運べるギリギリの大きさしかないし、その小窓は色んな位置に神出鬼没するので、待ち構える、ということもできなかった。
 それに、トイレやホットタオルも出現し、体を綺麗に保つことができて、就寝時間になると部屋も暗くなるので、自分のことが記憶にない彼でも、ちょっと窮屈だが、一般人と大して違わない生活を送れている自覚があった。
 男としては、それよりも気になることが発生した。
 女が、食事や排泄、そして睡眠をしていたのだ。
「お、お前……人間だったのか?」
 呼びかけても返答はなく、人形のような女がそこに横たわるだけだった。
「なんとか言えって、なあ! おい!」
 最初は呼びかけるという手段を用いていた彼も、人形に徹するような彼女の仕草に苛立ち始め、暴力的な手段によって、口を割らそうとする。頭を殴ったり、頬を叩いたり、腕を軽くねじったり。他にも眼球に触ったり喉の奥に指を突っ込んでみたりもしたが、それらしい反応がなかったので、男は、とても精巧に作られた人形なのだ、と結論づけることにした。間違いかもしれないが、そうでも思わないと、彼の心に平穏は訪れなかったのだ。
 しかし、半ばわかっていたことだが、そうやって自分の言い聞かせたところで、時々動く彼女に不気味な気持ちと恐怖を抱かないわけはなく、男は、洋食フルコースが出てきた日に、ナイフやフォークを使って彼女を殺害した。
 内臓などが出てきたとき、彼女が人間なんだと思えて、何故だかホッとした。

「…………ハッ!?」
「ど、どうしたの? 寝汗びっしょりだけど」
「いや、ちょっと変な夢を見て……」
 白く光る部屋、男と女は二人で、囚人のような、けれど会話をすることで気分を紛らわせ、楽しい気持ちで生活していた。そこにいるのは、ずっと前から一緒にいる明るい女で、二人とも記憶がない以上、名前などはわからないけれど、お喋り好きということを男は知っていた。
 そんな話し相手のいるさびしくない生活を送れている彼も、ふと、あるときに思ってしまった。彼女がいなくなったら自分はどうなるのだろう、と。ある日、突然、食事を送ってくる謎の連中が、彼女を連れ去ってしまうかもしれない、と。
 そう考えた彼は、食事と一緒にやってきたフォークで、彼女の首筋を――

 大きな液晶モニターは複数に分割され、監視カメラの映像を、それぞれ映し出していた。薄暗い研究室には、その映像を見ている白衣の男と、後ろで立ったまま、画面を覗き込むスーツ姿の男がいた。
「これで百五十人目ですよ、あなたか相手を殺したのは」
「そうか」
「どうやら、これまでの割合から算出すると、あなたの性質は性悪だという評価になりそうですね」
「まだ五十人、残っているじゃないか」
「すでに九割が殺害するという結果になってます。残りのパターンすべてが殺害しなかったとしても、すでに『性質判断実験』では性悪だという評価になりますよ」
「ふん、だが悪くない気分だ、自分の性質がこのような方法で判明するというのは」
 スーツ姿の男と、モニターに映し出されている男は瓜二つどころか、まったく同じ顔をしていた。モニターでは、たくさんの部屋に、男と女を、まるでモルモットのように入れてあった。女の行動や性格はまちまちで、場合によっては女の人数が違うところもあった。
 高度に発達したクローン技術で、長寿も健康も容易くなった現代では、このようにして、上流階級たちは自分のクローンと他人のクローンを一緒の閉鎖空間に押し込み、それをだいたい二百パターンくらい用意して、どうなるかという実験を秘密裏にやっていた。白衣の男が『性質判断実験』と呼んだものだ。
 性善と言われるような人間は、どんな極限状態になろうと、相手を殺すような行動はしないのである。最悪、自分を殺すくらいだ。耐えられなくなったり、相手を疑ったり、見えない何かと戦った結果、相手を殺すという行動をしたら、その人間は性悪だという判断になる。
 どうやら彼は、性悪だったようだ。
 けれど、こんなクローンの人権を無視した実験をやる時点で、その人間は性善とは呼べないのではないだろうか。

テーマ:短編小説 - ジャンル:小説・文学

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